上司の専属医になって、王子様に出会う

2026-03-03

社長令嬢ものなんて山ほどあるけど、専属医が出てくるのは半分くらいじゃない? で、不幸にも、ある社長の専属医になっちゃったわけ。 初出勤は、深夜3時に社長から電話。愛人が怪我だって、大至急だって。 びっくりして、救急箱持って、別荘まで走って行ったのよ。そしたら、なんと、もう怪我治ってるじゃない。 5回目の出勤。また社長から電話。「愛人が足を捻挫した。治療が遅れたら、お前の人生終わりだぞ」って。 駆けつけてみたら、二人で楽しく踊っていて、まるで眼中にないみたい。 何度目か分からない訳の分からない理由で呼び出されて、ドアの外で二人のラブラブな様子を見て、思わず拳を握りしめて、心の中で毒づいた。 「ちくしょう!心臓病だって?うちのじいちゃんの畑の牛より元気そうじゃん!もう夜中に呼び出すんじゃねぇ!全員犁に繋いでじいちゃんの畑を耕させてやる!」 すると、あのトップスターの凛太郎さんの弟が、びっくりした顔でこっちを見て、「俺も行くの?」だって。

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「上司の専属医になって、王子様に出会う」第1章

S市医科大を優秀な成績で卒業し、在学中は専門科目も選択科目も常にトップで、森教授から将来の医学界の宝と呼ばれていました。 森教授が涙ぐみながら私の手を握り、きっと優秀な外科医になって多くの人を救う白衣の天使になれる、偉大で高潔な存在になれると言ってくださったのを、今でも覚えています。 外科医になる準備は万端で、将来、研修医たちに先生と呼ばれながら過ごす老後を想像しては、悦に浸っていました。 けれど卒業前に、黒木剛という男が現れて、目の前に一箱のお金を置いたんです。 「1000万円で、うちの社長の専属医になってくれ」 考えるまでもなく断りました。 年1000万円なんて、乞食でももっともらえるでしょう? 確かに今の年収は100万円だけど、保険に入ってるし!老後は年金で遊んで暮らせる… 「月1000万円だ」 少し沈黙しました。 「分かりました。社長は今どこが悪いんですか?すぐに診察に行きます」 年金なんて、いらない! こうして金に目が眩み、黒木剛に連れられて豪邸に行きました。 けれど社長は現れず、そこにいたのは社長の弟。身長188センチのイケメンで、肩幅広くて腰が細くて、腹筋バキバキ、人魚線もくっきり。 普通だったら、こんなイケメンを目の前にしたらうっとりするはずなのに。 私の頭に浮かんだのは、この腹筋、解剖したら弾力ありそうだな、ってこと。 すると、イケメンがゆっくりと手を上げて、お腹を押さえたんです。 専属医と言っても、実際はベビーシッターと変わりません。 ある日の深夜3時、ぐっすり寝ていると、社長から電話がかかってきました。 「至急」という言葉に、殺人事件にでも巻き込まれたのかと心臓が止まりそうになり、携帯も持たずに、救急箱と白衣だけ掴んで飛び出しました。 門田さんも幽霊を見たと思ったみたいで、次の日、住人グループチャットで祈祷師を呼ぼうかって話してました。 到着すると、社長と白鳥雪乃さんがソファでいちゃついているところでした。 私が来ると、雪乃さんは涙目で指を差し出しました。 そして社長の冷たい声が響きました。 「早く治せ。治せなかったら、お前らを皆殺しにして雪乃に陪葬させる!」 ほとんど見えないくらいの小さな傷を見て、言葉が出ませんでした。 …殺される覚えはない。 普段なら治療なんてしないし、唾でもつけないような傷なのに、陪葬だなんて…! 私の戸惑いを感じたのか、社長は何も考えずに札束をテーブルに投げつけました。 「早く治せ」 すぐにしゃがみこんで救急箱を開け、「かしこまりました」と答えました。 くそっ、私はこんなに金に弱い女だったのか! 大事そうに絆創膏を貼っていると、見覚えのあるイケメンと目が合いました。 初対面の時に黒木剛から紹介された秦悠真さん、社長の弟で芸能界で活躍しているらしい。有名人なのか、あの顔は色々な商品パッケージで見たことがあります。 イケメンなのは認めるけど、今は本当にイライラしているので、笑顔を作って軽く会釈しました。 心の中では「見てんじゃねえよ。社長のお墓に頭突っ込んで、私も陪葬になるなら、お前も道連れだ」と悪態をついていました。 悠真さんの完璧な表情にわずかな亀裂が入り、私と社長を交互に見ました。 そして「兄さん、死ぬの?」と聞いてきました。 案の定、彼は家を追い出されました。 私もです。 彼はバカなことを言ったから追い出された。 私は邪魔だから追い出された。それは分かります。 午前4時、まだ暗いし、すごく寒い。 白い白衣を着て冷たい風に吹かれていると、隣には身長188センチのイケメン。 昔ならドキドキしていたはずなのに、今は苦しい社畜の身。恨みの念は7日目の死んだ犬より強く、彼に構っている余裕はありません。 ただ、礼儀として挨拶しました。 「悠真さん、もう大丈夫なので失礼します。何かあればいつでも電話してください」 笑顔で、続きは言いませんでした。 社交辞令だよ、図に乗らないで。 あと、社長にもう一度夜中に呼び出して、血も出てない傷を治せなんて言ったら、家族全員解剖実習の献体にしてやる。お前が最初だ。 悠真さんはゆっくりと視線を逸らしました。 けれど、震える手に、彼の本音が垣間見えました。 完璧な表情管理をしながら、電動バイクの鍵を取り出して、かっこよくエンジンをかけ、アクセルをひねりました。 けれど、アクセルをひねりすぎたのか、電動バイクは反応せず、その場から動きません。 もう二回ひねって、完全に壊れたことを確信しました。ランプもつきません。 この電動バイクは、意味不明だけど月給1000万円の仕事のために、先日露天商から1万円で買った中古品です。 どうやらショートしたみたいで、全く動きません。 背中に感じる視線が痛くて、振り返らなくても悠真さんが私を見ているのが分かります。きっと、なぜ行かないのか不思議がっているのでしょう。 傷つきやすいプライドが邪魔をして、バイクから降りて押すのが嫌でした。ダサいし。 そこで…名案を思いつきました。 悠真さんに見えないように、足で地面を蹴って進みます。 動くことは動くけど、自分の体重と足の力のなさを甘く見ていました。2分漕いで5センチしか進みません。 もう限界…と思った時、いい声だけどムカつく男の声が後ろから聞こえてきました。 「佐倉先生、まるで陸に上がりたいカメみたいだね」 黙りました。 口は飾りか? 結局、電動バイクが重すぎて、これ以上やったら足がムキムキになりそうなので諦めました。 バイクから降りて悠真さんを見ると、笑顔を保つことができませんでした。 すると彼は二歩近づいてきて、私の電動バイクを見て、鍵を抜きました。 そして親切に「接触不良だね、誰か修理してくれる人探さないと」と言いました。 その言葉を聞いて感動しました。なんていい人なんだ、きっと助けてくれるに違いない、と。 でも、次の言葉で現実に引き戻されました。「俺はバイクの修理なんてできないから、やっぱり漕いで帰るしかないね。出口はあっちだよ、頑張って」 笑顔が凍りつきました。 誰?あっち行って。 いい人だけど、ちょっと足りない。 一瞬、彼の顔に悪巧みが浮かんだのが見えました。 拳を握りしめながら、「分かりました、悠真さん、さようなら」と言いました。 そして、壊れた電動バイクを押しながら、暗闇の中へ進んで行きました。 十数秒後、またあの声が聞こえてきました。 「早く行った方がいいよ、もうすぐ掃除の人が来るから、邪魔しちゃだめだよ」 … 絶対に。 お前、私に弱み握られない方がいいよ。 じゃないと、ただじゃおかないから!

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